東京地方裁判所 昭和55年(ヨ)2215号 決定 1980年7月21日
申請人 菅野征二 外一二名
被申請人 全国電気通信労働組合
主文
申請人らが被申請人組合の組合員たる地位にあることを仮に定める。
申請費用は被申請人の負担とする。
理由
一 当事者の求めた裁判
1 申請人
(一) 被申請人組合は申請人らをその組合員の資格を有する者として仮に取り扱わなければならない。
(二) 申請費用は被申請人の負担とする。
2 被申請人
(一) 申請人らの仮処分申請を却下する。
(二) 申請費用は申請人らの負担とする。
二 当事者の主張
1 申請人
(一) 被申請人全国電気通信労働組合は、電気通信産業労働者で構成する労働組合であり、申請人らは、いずれもその組合員であつた者である。
(二) 被申請人組合は、中央本部指示第三号及び第七九回臨時東北地方委員会の決定に基づき、昭和五四年一一月二六日から一二月四日までの間、福島県支部組合員全員を対象として組合員再確認運動を実施し、一般組合員に対しては「組合員再確認書」(その内容は別紙一のとおりである。)の提出を求め、また、分会役員に対しては右「組合員再確認書」と「誓約書」(その内容は別紙二のとおりである。)の提出を求めたが、申請人菅野征二、同鈴木善啓、同鴫原敏夫、同松本茂則、同沼内輝夫は分会役員として右のいずれも提出せず、また、その他の申請人らは右「組合員再確認書」を提出しなかつた。
これに対して、被申請人組合は、申請人らがいずれも組合から離脱したものとして、右菅野以下五名の分会役員については同年一一月二七日以降、その他の申請人については同年一二月五日以降、それぞれ組合員資格を否定している。
(三) 本件組合員再確認運動による組合員資格の否定は、組合規約上の根拠を有しないものであり、また、一定の厳格な事由に基づく以外は組合員はその意に反して組合員たる資格を奪われないことを保障している組合規約の趣旨に反するものであつて、違法である。
申請人らはいずれも真摯な組合活動家であり、組合民主主義に反する一方的な本件再確認運動に疑問を感じて、組合員再確認書等を提出しなかつたものにすぎず、組合員資格を放棄するような意思は全く有しなかつたものである。
(四) 被申請人組合によつて組合員資格を剥奪された結果、申請人らは、組合員としての一切の権利を行使することができず、極めて深刻な状況に置かれており、本案訴訟の判決の確定を待つては回復しがたい損害を被るおそれがあることは明らかであるから、本件仮処分申請に及んだ次第である。
2 被申請人
(一) 申請人の主張(一)、(二)を認め、同(三)、(四)を争う。
(二) 本件組合員再確認運動は、福島県支部がその支部大会において組織防衛に関する全電通の方針に従つた活動方針を否決し、支部執行部全員が総辞職するという異常な組織混乱状況に陥つたのに対して、このような組織混乱を打開し、支部の再建をはかるためにされたものであり、このような異常な組織混乱を収拾し団結破壊を回避し組織を再建するためには、組合員個々人に全電通の組合員として今後も運動に参加していく意思があるのかどうかを確認することが最低限必要である。
そして、被申請人は、本件再確認運動を行うに際し、オルグ活動を十分に行い、支部組合員全員に対し、署名を拒否する場合には全電通を離脱したものとみなす旨の説明を十分行つた。この「離脱したものとみなす」とは脱退の意思表示と理解するということである。
申請人らは、署名拒否又は確認書の不提出が組合離脱とみなされることを十分承知のうえで、署名拒否等の行動に出たものであつて、これを組合脱退の意思表示と理解してもなんら法的妥当性を欠くものではない。すなわち、申請人らは、本件再確認運動の背景、原因及び効果を十分理解しながら、あえて再確認の拒否行為にでたものであり、再確認運動の実施の趣旨を否定し、被申請人の組合員であることを自ら拒否したものである。このことは、被申請人組合を自ら離脱し脱退する意思表示にほかならない。申請人らが被申請人組合の組合員としてとどまる意思をもつていたならば、再確認書に署名して提出するという一挙手一投足の労をとれば足りたものであり、これを拒否したのは、今後被申請人の組合員として活動する意思のないことを表明したものと理解されるのは当然である。
本件再確認運動については組合規約上明文の規定がないことは事実であるが、組合員の行動によつて団結が危機にさらされている場合、組合はこの危機を回避するために必要かつ適切な手段をとりうるものであり、規約上明文をもつて規定された統制手段のみに限定されるいわれはない。また、本件再確認運動は、第八〇回臨時中央委員会の決定に基づき中央執行委員会が発した指令により行われたものであり、このような正式の組合の意思決定機関の決定に基づく場合には再確認の拒否は脱退の意思表示と理解してよいというべきである。なお、本件再確認手続においては、「組合員再確認書」を提出した者はすべて組合員として取り扱われることになつていて、再確認書提出後組合において組合員たる適格性の審査をすることは予定されていなかつた点からみても、本件再確認書の提出拒否は脱退の意思表示とみることが許されるものといわなければならない。
三 当裁判所の判断
1 疎明資料及び審尋の結果によれば、次の事実が疎明される。
(一) (全国大会における妨害行為)
昭和五〇年八月二五日から二九日まで長野県松本市で開かれた全電通第二八回全国大会において、四〇〇名余の集団が会場入口で全国大会議案に反対するビラを配布し、また、傍聴席に入つて野次、怒号、足ぶみ等をして議事を妨害したが、この集団のなかには一〇〇名を超える全電通福島県支部所属の組合員がいた。
翌五一年七月五日から九日まで岐阜県岐阜市で開かれた全電通第二九回全国大会において、開催地の準備委員会に事前に報告することなく約七〇〇名余の集団が突如貸切バス一三台を連ねておしかけ、準備委員会の制止もきかずに全電通への中傷等を記載したビラを配布したりして、会場周辺を混乱におとしいれた。
(二) (右妨害行為に関する調査活動)
右第二九回大会は、右妨害行為は全電通に対する破壊行為であり、組合員でこれに参加した者は組合民主主義を守る立場から徹底的に糾明することを決定し、そのため、調査委員会を設置し、事実関係を調査のうえ組織防衛上必要な措置をとることにした。
右大会決定をうけて全電通中央本部に設置された調査委員会は直ちに調査活動を開始して、福島県支部執行部に対して調査を要請し、右妨害行為への参加者の名簿の提出を求めたところ、同支部執行部はこれに対して機敏な対処を行わず、参加者も「このような調査は思想調査だ」と称して自らが参加者であることを申し出ることをしなかつた。
同年一〇月五日に開かれた第七一回中央委員会は、調査活動を促進し参加者全員から自己批判書を提出させることを決定したので、東北地方本部執行部は、福島県支部への指導を強化した。その結果、一〇九名が右妨害行為への参加者であることが確認されたが、福島県支部執行部は、「(1) 自己批判書は一〇九名全員から提出できないと意思表示され、組織としても確認した。(2) 支部執行委員会は組織派遣の立場からも提出を求めるとりくみは、これ以上続けることは困難と判断した。」との態度を表明し、さらに、昭和五二年一月六日、「(1) 全国大会破壊行動であることを否定し、組織的にとりくんだことを正当化し、(2) 七一中委の決定である参加者個々人からの自己批判書の提出を機関として拒否する。」との態度を表明した。
そこで、東北地方本部は、一月一〇日、第七一回地方委員会を開催し、同委員会において、福島県支部役員の任務を凍結し、役員は自宅謹慎とする旨の提案がなされた。この提案を受けてなされた福島県支部・関係各分会執行部のとりくみによつて、一〇八人の参加者から自己批判書が提出され(一人は病気療養中のため保留)、一応の終結をみた。
(三) (いわゆる東北地本の八項目指導)
昭和五一年及び翌五二年に開催された福島県支部大会において全電通の組織方針から逸脱した意見が続出したため、東北地方本部執行部は、昭和五二年一〇月三一日、地方本部・福島県支部合同執行委員会を開き、
(1) 頸肩腕症候群に関する闘いについて
(2) 公社攻撃について
(3) 職場交渉の実態について
(4) 点検・摘発運動について
(5) 全国大会破壊行為について
(6) 支部大会の運営について
(7) 社青同・労働大学と組織の関係及び政党支持について
(8) 情宣活動について
以上八項目についての指導を行い、福島県支部執行部もこれを受け入れた。
(四) (全電通東北第一〇八号「組織指導に対する最終態度について」による文書指導)
右地本指導八項目等に対する福島県支部執行部のとりくみが停滞し、その行動姿勢があいまいであつたため、東北地方本部は、昭和五三年六月三〇日福島県支部に対し、地本執行部が指導している各項目に対する態度表明を求める全電通東北第一〇八号を発し、これに対する回答を求めた。
これに対して、福島県支部は、同年七月七日、「執行委員会の態度として全電通東北第一〇八号の態度を確認し執行します。」という回答をした。
(五) (全電通東北第一〇八号の執行状況)
その後の一年間における福島県支部による全電通東北第一〇八号の執行状況をみると、相変らず反組織キヤンペーンがくりひろげられ、全国大会破壊行為への反省すべき内容が明らかにされず、また、社会主義協会(向坂派)・社青同・労働大学との組織的断絶が明確になつていないなど、同支部による組織運営の改革は、ほとんど行われなかつた。
(六) (東北地方本部第三一回地方大会での大会確認)
右のような福島県支部の状況をふまえて、昭和五四年九月一一日開催された東北地方本部第三一回地方大会は、今日なお正常化が図られていないこと自体支部をはじめ問題のある分会役員が制裁に値することを示すものであることなど七項目にわたる「福島県支部の組織の正常化に対する大会確認」をした。
(七) (第三一回福島県支部大会における一九七九年度活動方針案の否決)
このような状況のもとで、昭和五四年一〇月二四・二五日の両日に開催された第三一回福島県支部大会は、支部執行部の提案した一九七九年度活動方針を賛成三七票、反対五一票で否決した。
支部活動方針は、単一組合たる全電通の最高議決機関である全国大会で決定した運動方針及び支部の上級機関たる地方本部の最高議決機関である地方大会で決定した活動方針を具体化したものであつたから、支部大会が支部活動方針を否決したことは、単一組織のなかの一支部が全国大会・地方大会の決定を否定したものであつて、極めて異常な事態であつた。
そして、支部執行部は、活動方針否決の責任をとつて総辞職し、福島県支部は、活動方針と執行機関を失い、組織としての機能を全く喪失した。
(八) (組合員再確認運動の実施)
昭和五四年一〇月三一日開催された第八〇回臨時中央委員会は、右の事態を「福島県支部再建に関する問題」として取り上げ、「全体の総意を結集した単一組合の方針が否定をされるということは、組合民主主義の否定であり、組合原理にもとることはなはだしい。」「単一組合である全電通の福島県支部は支部の組織的機能を完全に喪失した」との認識に立つて、「全電通の組織の総力を挙げて、われわれは執拗な再建の取り組みを行う。」「具体的なやり方については中央執行委員会にご一任をいただきたい。」との提案を承認、決定した。
同年一一月二日開催の第七回中央執行委員会は、右中央委員会の決定をうけて、「(1) 福島県支部再建に関し別途指示を発出する。(2) 指示の主旨は再確認運動の実施とする。(3) 再確認運動の日程等具体的実施方法については、東北地方執行委員会に委任する。」と決定した。
次いで、同月二一日、中央執行委員会は、東北地方執行委員会及び福島県支部組合員に対して、次のような指示第三号を発した。
(指示第三号)
一 一一月二六日から一二月四日までの九日間、福島県支部の全組合員を対象とした「組合員再確認」運動を実施すること。
二 前一項の運動は、一二月中旬、支部再建大会開催を目途として実施すること。
三 具体的とりくみについては、東北地方執行委員会の指示に基づき対処すること。
そして、指示第三号発出に伴う連絡として、再確認運動の実施要領は、「(1) 所定の署名用紙(組合員再確認書。その内容は別紙一のとおりである。)に署名捺印する。(2) 分会役員については、前(1)に併わせ「誓約書」(その内容は別紙二のとおりである。)に署名捺印する。(3) 以上の再確認に応じたものには、組合員証を交付する。」ものとし、一二月四日までに再確認に応じなかつた者は、全電通組合員の資格を失うこととする旨が指示された。なお、右指示には、別紙三のとおりの内容の組合員再確認署名趣意書が添付されていた。
この組合員再確認は、被申請人においてオルグ活動を十分に行い、支部組合員全員に対し、署名を拒否する場合には全電通を離脱したものとみなす旨の説明を十分に行つたうえ、分会役員及び特別執行委員については一一月二六日、他の組合員については同月二七日から一二月四日まで実施されたが、組合員再確認書(分会役員についてはほかに誓約書)の提出を拒否した者は、申請人ら一三名とほかに一名の合計一四名であつた。
申請人らは、もとより被申請人組合から脱退する意思はなく、本件組合員再確認運動は組合民主主義を否定する違法なものであるという見解に立つて、右組合員再確認書等の提出を拒んだものである(なお、申請人中、野田悦子、佐藤恵美子及び鴫原敏夫の三名は、脱退を理由として電通共済生協共済金の返還を請求し、それぞれその支払を受けているが、これをもつて右三名の者が真実、全電通労働組合から脱退する意思があつたものと認めることはできない。)。
(九) (組合員資格の剥奪)
右組合員再確認書等の不提出の結果、申請人らは、組合員資格を喪失したものとみなされて、組合員としての一切の権利、資格(組合共済に関する資格等)を剥奪されている。
2 右疎明された事実によると、本件組合員再確認運動は、全電通労働組合がその下部組織である福島県支部に生じた異常な組織混乱を打開し破壊された団結を回復して同支部の組織の再建を図るためにやむをえず行つたものであることは明らかであり、その限度でもとより正当性を有するものであることはいうまでもないところと解されるが、しかし、このことから直ちに本件組合員再確認運動に応じないで組合員再確認書等の提出を拒んだ者が当然に全電通労働組合の組合員たる資格を喪失したことになるものでないことも、また明らかであり、右組合員再確認書等の提出を拒んだ者がいかなる法的効果を受けるかは、別個に吟味しなければならない問題である。
(一) そこで、まず、本件組合員再確認書等の提出を拒否したことが、被申請人の主張するように、全電通労働組合を脱退する意思表示とみられるかどうかについて、検討する。
疎明資料によると、被申請人組合の規約には、組合員資格の得喪として、次のような規定があることが認められる。
(加入)
第四九条 第五条第一項または第二項に該当する者が組合に加入しようとするときは、所定の加入届に署名押印の上、支部または分会を経由して、中央執行委員長に届出、中央執行委員会の承認を得なければならない。
2 前項の手続を経て、組合に登録され、組合員証の交付を受けることによつて、組合員としての権利と義務が発生する。
(第三項ないし第五項省略)
(脱退)
第五〇条 組合を脱退しようとするものは、予め、その理由を付して中央執行委員長に届出、中央執行委員会の承認を得なければならない。
2 争議中の脱退は認めない。(以下省略)
(資格の喪失)
第五一条 組合員は、つぎの場合、その資格を失う。
一 脱退が承認され、または除名されたとき。
(二号以下 省略)
また、疎明資料によると、被申請人組合の規約には、組合員に対する制裁として、次のような規定があることが認められる。
(制裁)
第五六条 組合員でつぎの各号の一に該当するものは制裁をうける。
一 組合の綱領、規約、議決機関の決議および指令に違反したとき。
二 組合の名誉を著しく汚したとき。
三 組合の秩序と統制をみだしたとき。
四 故意又は重大な過失により組合に損害をあたえたとき。
五 議決機関の議決に反する行為をおこない、組織に混乱をあたえたとき。
2 前項の制裁は警告、権利停止、脱退勧告および除名とする。
3 権利停止により、停止される権利は、第五二条第二項第一号ないし第四号とする。
4 警告および権利停止および脱退勧告は、支部以上の議決機関の議を経なければならない。
5 脱退勧告をうけた者が六ケ月を経た後その事由が解消していないと当該議決機関が認めた場合は、除名を申請することができる。
ただし、脱退勧告期間中は権利停止を伴うものとする。
ところで、このような組合員資格の得喪及び組合員に対する制裁に関する労働組合の規約の解釈については、厳格な態度を貫くべきものであつて、みだりに規約に定める以外の方式による組合員資格の得喪あるいは組合員に対する制裁のやり方を認めることは許されないものといわなければならない。けだし、組合員資格の得喪あるいは組合員に対する制裁は組合を構成する組合員に関する最も重要かつ基本的な事項というべきものであつて、組合員は、組合の規約によつて、規約に定める組合員資格の得喪の方式ないし制裁の方式以外の方式によつてはたやすくその資格を奪われあるいは制裁を課せられないことを保障されているものと解さなければならないからである。
このような見地に立つて、本件を見ると、本件組合員再確認運動は、前記のとおり、一般組合員に対しては別紙一記載のような「組合員再確認書」の提出を求め、また、分会役員に対しては右のほかに別紙二記載のような「誓約書」の提出を求めて、その提出を拒否した者は当然に被申請人組合の組合員資格を失うとするものであつたのであるが、被申請人が一般組合員に対して提出を求めた右「組合員再確認書」は、「全電通の綱領・規約・諸規定を遵守し、権利義務を責任をもつて履行します。」等三項目を確認するとともに、福島県支部における従来の活動が「独善的な一部役員および組合員」によつてされたものであつて「組織運営の原則、組合民主主義を踏みにじり、四三〇〇名の結集体である福島県支部全体の運動を私物化しようとする」ものであつたことを指摘する別紙三記載のような組合員再確認署名趣意書の内容を確認するものであつたことが認められる。そして、福島県支部の役員又は組合員であつた申請人らは、右のような形でされた本件組合員再確認運動は組合民主主義を否定する違法なものであるという見解に立つて、脱退の意思が全くないにもかかわらず、右「組合員再確認書」に署名しこれを提出することを拒んだものであることが認められる。
そうすると、申請人らが右「組合員再確認書」に署名してこれを提出することを拒んだからといつて、これをもつて直ちに申請人らが被申請人組合から脱退する意思を表示したものと擬制することはできないというべきである。組合員の脱退は、組合員の側からの自由な意思による組合離脱であるべきものであり、本件「組合員再確認書」の不提出をもつて組合からの離脱とされることは、脱退の意思が全くなく単に本件再確認運動が違法であるという見解に立つて右再確認書の提出を拒否したにすぎない申請人らにとつては、右不提出を理由にその意に反して組合から離脱させられることにほかならないといわなければならないからである。
(二) したがつて、本件組合員再確認は、その実質において、組合員の意思に反する組合員資格の剥奪であるといわざるをえないと考えられるが、規約に定める方式以外の方式による組合員資格の剥奪を認める余地のないこと前述のとおりである以上、本件「組合員再確認書」等の不提出をもつて組合員資格が剥奪されたものとすることができないことは明らかである。
(三) なお、右のように解すべきことは、本件組合員再確認運動が中央委員会の決定に基づき中央執行委員会の発した指令に基づくものであることによつて左右されないものというべきである。規約の改正によらなければ、規約の定める組合員資格の得喪以外の方式による組合員資格の剥奪を認める余地はないと考えられるところ、疎明資料によれば、被申請人組合の規約の改正は全国大会の権限とされていて、中央委員会の権限とされていないからである。
(四) 以上によれば、申請人らは、被申請人組合の組合員たる資格を失つていないものといわなければならない。
3 疎明資料及び審尋の結果によれば、申請人らは、役員の選挙に関する選挙権及び被選挙権の行使等を含む被申請人組合の組合員としての権利行使をすべて否定されて一切の組合活動から排除されており、また、電通共済や労働金庫の利用を拒否されるおそれがあることが認められるので、本件において保全の必要性のあることは明らかである。
4 よつて、申請人らの本件仮処分申請はいずれも理由があるから、これを認容することとし、申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 宍戸達徳 相良朋紀 須藤典明)
(別紙一)
組合員再確認書
私は、本部指示第三号による全電通福島県支部再建のため、別紙組合員再確認署名趣意書および次の各項を全面的に確認し、今後も全電通組合員として運動に参加することを誓います。
一、全電通の綱領・規約・諸規程等を遵守し、権利・義務を責任をもつて履行します。
二、組合民主主義によつて、各級組織で決定された全電通の方針や議決機関の決定に従い、正しく実践するとともに、組織運営の秩序と規律を守ります。
三、全電通の中に、他の政党や政治団体の思想や方針をそのまま持ちこみ、全電通の方針に優先させ、行動をおこすようなことは一切いたしません。
一九七九年 月 日
所属分会
氏名
全国電気通信労働組合
中央執行委員長 及川一夫殿
(別紙二)
誓約書
私は、分会役員として、従来から指摘・指導を受けてきた諸事項について、次の態度で活動していくことを誓います。
記
一、「組合員再確認」の全内容について、積極的にこれを確認し、その立場で指導を強化します。
二、第二八回、および第二九回全国大会に対して行つた、いわゆる組織破壊行動の如き行為は絶対に許されるべきものではなく、従つて今後は一切そのような指導は行ないません。
三、職業病闘争にあたり、「治療と闘いは一体」ということで治療専念を軽視の上、諸行動の先頭にり病者を立たせるなどということは、全く誤まつた取組みであり、り病者は治療専念が第一義であるとの方針で指導に当らなければなりません。
従つて、四月一八日、同二五日、同二六日および七月一〇日、同一六日などにおける郡山分会の、り病者による集団交渉的行動は誤まりであり、このようなことを放置することは絶対にしません。
また、り病者連絡会の復活につながるような動きに対しては、組織方針に基づき対処します。
四、同じく郡山分会において、頸肩腕症候群り病者が、医師の指示に従わずレントゲン撮影を拒否し、加えてこのことの分会情報が事実を歪曲して周知を行ない、医師に陳謝文を提出するという事態がありました。
このことは治療態度、組合の名誉の点から重大問題であり、このような取組みは絶対行ないません。
五、「頸肩腕症候群は合理化病である。従つて、何処の職場にいつても治らない」との誤まつた方針のもとに、り病者の職種転換を否定するが如き取組みは、治ゆの促進を阻害する誤まつた指導であり、従つて、今後は職種転換を促進するよう積極的に対処します。中央協約、地方確認に基づく治ゆに関する組織指導を正しく実践します。とくに職種転換絶対反対という指導は行ないません。
六、情宣活動は、全電通の組織方針を正しく組合員に伝達することによつて、一層の団結強化を図ることがその使命であるので、これに反し、いやしくも、事実無根の反組織キヤンペーンなどを許容することなく、自らも、そのような誤りをおかさないこととします。
七、六次中央了解事項の具体化について、「雇用確保と働きがいのある職場づくり」という組織決定方針を全面的に否定し、「利案・調査業務の実施絶対反対」の誤まつた方針の延長線上に「業務量のいかんにかかわらず、一名の要員減でも絶対反対」などの行動があります。
今後はこれを改めさせるため組織方針を正しく認識の上、取組みを強めていきます。
八、青年・婦人活動における「独自性、創造性」は基本組織と無関係ということではなく一体的のものであり、指導・被指導関係もまた明確であります。
しかるに、一部分会において、青年・婦人会議の反組織キヤンペーンを許容したのは誤まりであり、従つて、以上の立場で日常活動・情宣活動など、全電通の方針に反する活動に対しては、きびしく指導対処します。
九、大衆行動の展開は、その都度、支部・地本の指導のもとに、組織が責任をもつて実施するものであり、従つて、組織方針に徹した取組みを行つていきます。
一〇、労使間の団体交渉で扱うべき事案を、盟約事項と称して一方的に実行することは、全電通の「職場活動のあり方」に反する取組みであり、このような取組みおよび指導は直ちに改めます。
一一、社会主義協会(向坂派)、社青同について
1 社会主義協会(向坂派)、社青同は全電通の敵対組織であります。
2 全国大会破壊行為以来、全電通に対する組織攻撃を継続して行なつており、社青同については、機関紙「青年の声」等を通じた組織攻撃が今日なお顕在しております。
3 全電通福島県支部における過去数年間の組織混乱の原因もこの組織攻撃にあります。
4 したがつて、社会主義協会(向坂派)社青同による組織攻撃に対し毅然として対決し、このための情宣活動オルグ活動の先頭に立ちます。
5 また、組織として、社会主義協会(向坂派)社青同の「出版物」、「諸会議、集会などの行事」「『まなぶ』雑誌」「『社会主義』などの購読」「学習会、講師依頼」など一切の関係を絶ちます。
一二、地域共闘について
1 社会主義協会(向坂派)、社青同など敵対組織との共闘は行なわないこととします。疑義のある場合は上部機関の指導をもとめます。
郡山分会の「故鈴木千恵子さん追悼集会」に関するとりくみなど、地域共闘をかくれみのにするやり方は誤まりであり、このようなことは一切ないよう対処します。
2 春闘みなおし問題など全電通の方針の理解をもとめるため全力をあげます。
一九七九年一一月二一日
所属分会 役職
氏名 <印>
全電通中央本部
執行委員長 及川一夫殿
(別紙三)
組合員再確認署名趣意書
全電通福島県支部は、現在、重大な組織の危機に直面しています。
それは、去る一〇月二四・五の両日開催されました第三一回福島県支部定期支部大会で、組織防衛に関する全国大会、および地方大会決定に基づく、自律的改革について、地方本部の指導により支部が提案した、いわゆる組織決定方針と他の本年度活動方針を含め、支部大会がこれを否決したということであり、加えてまた、支部役員全員が総辞職をするという事態となり、全電通福島県支部全体が、現在、組織機能を全く喪失するという状況にあります。
このような事態に立ち至つた直接の原因は、支部大会における全電通方針の否決、支部役員の辞任でありますが、このような重大事態をひきおこした背景、即ち、福島県支部内に根強く存在する運動体質そのものを強く指摘せざるを得ません。
松本・岐阜における全国大会の破壊行動に象徴されますように、社会主義協会(向坂派)、社青同の方針をそのままもちこみ「自らの主張を貫くためには手段を選ばず、また、決まつたことでも反対の場合は従わない」という、正に独善的な一部役員および組合員が、組織引き廻しを行う、という一連の諸行動の結果がもたらしたものといえます。
今日までの福島県内の組織運営は、多くの問題をおこしてきました。
例えば、職業病闘争で「治療と闘いは一体」などと称して治療軽視の指導をするとか、六次の取り組みでは、「利案、調査業務の実施は、公社・全電通ベツタリの合理化攻撃」などという、全く事実に反するキヤンペーンをはる、等々であります。
このようなことは、「みんなで討議し、みんなで決め合い、みんなで守り合う」という組織運営の原則、組合民主主義を踏みにじり、四、三〇〇名の結集体である福島県支部全体の運動を私物化しようとする、そのあらわれであるということにほかなりません。
現在、全電通は、第四次長期運動方針の柱であります「社会的に価値ある労働運動」の構築を始め、生活制度要求の闘いなどを目前に控えていますし、地方的にも「雇用確保と働きがいのある職場づくり」のための、六次中央了解事項の具体化など、取り組むべき課題をたくさんかかえています。
従つて、現在の混乱と停滞を一日も早く改革し、県支部全体の組織再建を図らなければなりません。
今更いうまでもなく労働組合は「思想信条の違いをこえ、労働者共通の利益を守るため団結している民主的組織」でありますから、組合員一人一人が、この組合結成の初心にたち返り、全電通福島県支部全体の、真の再建を図るため、本部指示第三号(一一月二一日発出)および第七九回臨時地方委員会の決定に基づき、ここに「組合員再確認」の署名行動を行うこととしたものであります。
従つて、万一この「組合員再確認」の署名を拒否された場合は、極めて残念ですが、全電通から離脱したものとみなすことになります。
全電通福島県支部全組合員が、統一と団結を守り、全電通の強化発展のために頑張り、自らの手で支部の組織再建に全力をあげられますことを望んで止みません。
一九七九年一一月二一日
全国電気通信労働組合
中央執行委員長 及川一夫